台湾語って面白い! (『トラベル台湾語』著者 近藤綾インタビューその2)

台南出身で台湾語研究の大家である王育徳氏。そのお孫さんの近藤綾さんのパーソナルヒストリー第2弾です。

大学時代に台湾語の独学をはじめ「すぐ使える!トラベル台湾語」を出版するまでに至った近藤綾さんが台湾語の魅力を語ります。

また大学でブヌン族の研究を行い、台北駐日經濟文化代表處の秘書室勤務を経て、「台湾を応援する会」の事務局長兼デザイナーに至るまでのインタビュー記事はこちら。彼女が人生の時々に何を思い、台湾とどう向き合っているか語っています。

王育徳から受け継いだ台湾魂、そしてブヌン族研究からタイワンダー☆へ (『トラベル台湾語』著者 近藤綾インタビュー その1)


-台湾語とはどんな言語なのですか?

台湾語とは、閩南語をベースに、台湾で独自の進化を遂げた言語です。元は総人口の75%を占めるホーロー系の人々の母語ですが、日常会話や商談などでは民族を越えて話されており、台湾を代表する言語という意味で、「台湾語」と呼ばれています。いわゆる中国語=北京官話とは親戚関係にあるものの、発音・語彙・文法まで異なり、その距離は英語とドイツ語より離れているといわれています。

たとえば、台湾語には声調が7種類あり、それぞれ、後ろに音節がつくと転調するという特徴があります。高いところから一気に下がる音(2声)が、下がらず高いところで平らに伸びる音(1声)になる、というような法則です。転調は、実は話しやすいように変化しているので、慣れればそれほど苦になりません。

また、一音節の動詞や形容詞がとても豊かで、意味するところが繊細なのも特徴です。たとえば、「むく」という単語は、ざっと数えただけで7種類もあります。大根などを刃物でむく=「siah 削」、ヘチマなどを刀でむく=「khau 剾」、芋の皮など薄い表皮をむく=「khun 髡」、タケノコなどの外皮をむく=「pak剝」、ピーナツなどを指先でむく=「lut 黜」、みかんなどを手でむく=「peh 擘」、野菜などの固い繊維を取り除くためにむく=「si絲」と、全て違います。

また、文法では、「ū 有+(形容詞や動詞)+bô 無?」構文というものがあります。たとえば、「彼女は綺麗ですか?」は、「I ū súi bô 伊有水無?」となります。また、動作の対象を表す「kā」を使う構文も有名です。たとえば、「Góa kā lí kóng 我kā 汝講…」(言うけどね…)と、「言う」の対象を導く「kā」が入ります。これらは、本来、中国語には見られない構文ですが、台湾の中国語(台湾華語)は、台湾語の影響を強く受けているので、「她有沒有漂亮?」・「我給你講…」という風に話す人が多くみられます。

台湾語の表記法は、漢字とローマ字の混ぜ書きが正式です。漢語由来ではない語彙が全体の20~30%も含まれており、それらは主にローマ字で表します。日本語でも、「~と」・「~の」などの助詞や、「ところが」・「しっかり」などは、通常ひらがなで書くのと同じですね。また、ローマ字のシステムにも、いくつか種類があります。一番代表的なのは、教会ローマ字(白話字/POJ)で、19世紀の後半にはすでに確立していたものです。『トラベル台湾語』を含め、日本で出ているテキストのほとんどがPOJを採用しています。もう一つ、2006年に台湾政府が公式表記法と定めた「臺灣閩南語羅馬字拼音方案」(台羅/TL)は、POJとは少し異なります。TLも台湾で出版されている教科書などで使われています。

ただ、こうしたローマ字表記法は、残念ながら今のところあまり一般には広まっていません(一部のインテリ層や教会関係者には読み書きできる人がいますし、雑誌なども出版されていますが、人口比では1%くらいの感覚です)。

代わりに、一般的には、漢字による当て字がよく使われています。「kā」→「共/給」、「bē」→「袂/未/抹」というように、漢字語源ではない語彙にも、全て漢字を当てるのです。カラオケなどで台湾語曲をかけると、やはり全て漢字で出てきます。ノンネイティブにとっては、同じ単語が色々な当て字で表現されるので、少しわかりづらいですね。 

また、台湾語の正字があるのに、あえて違う漢字を当てることで、「あ、これは中国語ではなく台湾語だな」と一目でわかるようにするやり方も最近の流行です。たとえば、「tòng-soán 當選」(当選する)を、あえて「凍蒜(中国語で近い音になる。ただし意味は「凍ったニンニク」!)」と書いたりする、ということです。

しかし、当て字の乱用は、スムーズな読み書きを阻害しますし、文字言語としての体系を崩すことになりかねません。ローマ字を普及させることは、台湾語を次世代に伝えていくためにも、緊急かつ不可欠の課題だと私は考えています。日本人の学習者の人からでも、きちんとローマ字を書ける人が育っていってくれたら嬉しいです。

-日本語由来の台湾語があるというのは本当ですか?

台湾語 日本語
ùn-chiàng (タクシーなどの) 運ちゃん
khi-mó͘-chih 気持ち
ô-én 応援
hi-nó͘-khih  ヒノキ(檜)
mè-sih  名刺
la-jí-oh  ラジオ
表作成:日台若手交流会

台湾語の中には、ái-sá-chuh アイサツ、kha-báng カバン、lîn-jín人参、o͘-jí-sáng オジサンなど、日本語由来の単語がたくさんあります。「Lí kā i ái-sá-chuh chi̍t-ē リカイアイサツチレ」(あなた彼にちょっと挨拶しなさい)というように、さらりと会話に出てきます。

本来の意味から少し変化した単語も多くあります。「o͘-se オセエ」は、日本語の「お歳暮」から来た言葉ですが、今では「賄賂・買収(する)」を意味します。また、「khí-mo͘-bái キモバイ」(=気持ち悪い、の意)は、「気持ち」からの外来語であるキモ、台湾語の「悪い」であるバイが合体した言葉です。

出張 chhut-tiuⁿ、見本 kiàn-pún、注射 chù-siāなど、日本語の漢字を台湾語読みした言葉も沢山あります(それぞれ、華語では「出差」、「樣品」,「打針」となり、台湾語との差異が目立ちます)。

もちろん、こうした言葉は、50年間にわたる日本植民地統治の歴史が残した産物です。そのことを謙虚に受けとめたいですね。「日本語由来の単語なぞ排除して、言語を純化せよ!」といった運動が今のところ見られず、寛容に受け入れてくれている台湾社会に敬意を払いたいものです。なんにせよ、日本語ユーザーとしては、台湾語の中の日本語を見つけると、親近感を覚えずにはいられません。ご自身でもぜひ色々と探してみてください。

-高雄に住んでいると、台湾語をよく耳にします。挨拶だけでも台湾語でしてみたいな、と思っても発音が難しくてすぐに心が折れてしまいます…。台湾語を話したいと思っている人に何かアドバイスをお願いします!

台湾語は、想像以上に、台湾人にとって重要な言葉です。特に南部では、家族や親しい友達といった心を許す相手には、必ずと言っていいほど台湾語で会話します。つまり、南部において、一言も台湾語を話さないで押し通すのは、「私はしょせん“外の人”で、あなた方の心に寄り添うつもりはありませんよ」と宣言するようなものなのです。台湾人は、「よその人」に対して、台湾語を強要することはまずありません。ただ、静かに距離を取り、お客様用の華語モードを発動するだけです。こんな風に扱われるのは、とてももったいないことだと思います。せっかくだから、一言でも二言でも、台湾語を話してみましょう!必ず、台湾人から、華語を使った時とは驚くほど違う反応が返ってくるはずです。

※もちろん、台湾は多民族社会ですので、ここでの「台湾語」は、それぞれの「民族の母語」と言い換えてよいと思います。客家の街では客家語が、ブヌンの村ではブヌン語が、それぞれみんなの魂の言葉です。少しでも現地の人の気持ちに寄り添いたかったら、そちらの言葉を (その場で教えてもらってもOK!) 使ってみると、グッと距離が近づきますよ。

 

日本人が台湾語を始めるのに、ためらう理由は、3つほどあると思います。

Q1:「まだ中国語もちゃんとしゃべれないから、台湾語は後回しにしたほうがいいのでは?」

A1:大丈夫! 語彙や発音には共通点も多いので、相乗効果でどちらも上達しますよ~! 私自身、中国語だけをやっていた時期よりも、台湾語も並行して学び始めてからの方が、中国語の伸びもグンと大きくなりました! それに、中国語と台湾語の声調は、80%くらい当てはまる法則でリンクしています。台湾語で1声(高く平ら)→中国語で1声、中国語で2声→台湾語で5声(上昇)、台湾語で2声(高いところから急に下げる)→中国語では3声、というように。母音や子音にも(私の体感では)70~80%の対応が見られます(例:台湾語の広いo(o͘)⇔中国語u、台湾語h⇔中国語x、など多数)。
つまり、台湾語の語彙が増えるほど、「あ、この“窮”っていう字、台湾語でkêng(5声)だから、中文でも2声かな? 台湾語でkだから、中国語だとqあたり? となると、qiong2あたりかな?」と、初めての漢字に対して、当て推量が効くようになるわけです。これ、結構有益ですよ。
なので、ぜひ同時に学び進めてください!
ちなみに、「ちゃんとしゃべれる」ようになるまで待ってたりしたら、いつまでたっても、次の言語を学ぶことはできませんよ~! 言語には“完璧”なんてことはあり得ないのですから。
台湾人自身が、同じセンテンス内で台湾語と中国語を混ぜてしゃべっているくらいですから、混ざろうが間違えようが気にせず、どんどん会話に台湾語をはさんでいってください。そのほうがずっと台湾らしいですよ。

Q2:「台湾語、台湾人もそんなに喋れないんでしょ?通じないんじゃ、勉強しても意味がないかなって…」

A2:それは誤解です!日本人がちょっと学んだくらいの台湾語を、全然わからない台湾在住台湾人は、まずいません。現に、ブヌンの村でも、出稼ぎ経験者の方は私より台湾語が上手でした。客家人も、ほとんどがとても流暢に台湾語を話せます。台湾において、きちんと生活・仕事をするなら、台湾語は必須なのです。台北でも、「見知らぬ者同士が集まる場」を除けば、路地裏の食堂や市場など、みんな台湾語で話しています。若い人だって、聞き取る方はほとんど問題ありません。ただ、台湾人は身内にとても厳しいので、上の世代に「あんたの台湾語は下手だ」と言われて育ち、自信のない若者が多いだけだと思います。同じ理由で、台湾人はよく「今の人はみな台湾語を話さない」と言います。これは、「もっと皆が話すようになるべきだ!」という願望の現れです。決して、これを額面通り受け取らないでくださいね。

Q3:「台湾語、発音が難しいのでは?特に、転調でつまづいちゃう~!」

A3:それは、多分に先入観だと思います。私は色んな言語をやってきましたが、台湾語は、日本人にとって特に発音の難しい言語ではありません。母音は日本語とほぼ一緒+“広いオ”があるだけ。音の上下も激しくないし、捲舌(けんぜつ)音もありません。

転調は、先にも触れましたが、基本“話しやすいように”変化しているので、慣れれば難しくありません。日本語でも、「べんきょう」/「つくえ」が、「べんきょうづくえ」になると、アクセントが変わるのと同じ理屈です。それぞれの音節の、本調と転調時の音を、2つずつちゃんと覚えればいいだけですよ。とはいえ、最初はきっと面倒に感じたりもすると思うので、とにかくたくさん台湾語を聞いて、頭の中に音を蓄えてください。日本人向けの台湾語テキストもたくさん出ています。台湾語の歌を覚えるのも楽しい勉強法です。ある程度基礎を身に付けたら、せっかく高雄にいるのだから、台湾語ローマ字のできる人に直接教えてもらってもいいですね。ぜひ頑張ってみてください!

<相談先:李江却台語文教基金會高雄聯絡處:高雄市80241苓雅區仁智街106巷2號6樓之3 TEL:(07)334-8080>

※『高雄プレス』(高雄日本人会発行)12月号掲載分に加筆修正

 

近藤綾 プロフィール

1979 年東京都出身。『すぐ使える!トラベル台湾語』(日中出版、2007 年)の著者。日本人のお父様と台湾人のお母様の間に生まれ、台湾語研究の第一人者、王育徳氏のお孫さんでいらっしゃいます。近藤さんご自身は日本で育ったこともあり、台湾語を勉強し始めたのは大学時代からとのこと。台湾原住民族史をご専門とされ、台北駐日経済文化代表処(台湾駐日大使館)代表秘書室にご勤務経験があり、現在も積極的に日台をつなぐ活動をされています。

 

 

日台若手交流会から補足情報

台湾語を習得するのはちょっと難しいイメージがあるかもしれませんね。

でも完璧にできなくても一言二言だけでも台湾語のフレーズが出せると距離が一気に近づくよ。

このページで紹介した台湾語講座は、不定期で日台若手交流会が開催したものです。次回開催日は未定ですが、決まりしだい日台若手交流会のfacebookで告知しますね。

なかなか台湾語を勉強する時間が無い方や、手軽に話してみたい方にはこちらのタイワンダー☆クリアファイルがオススメです。

よく使う表現ばかり、カタカナと矢印なので発音もしやすいです。台湾人の友達にきっとウケるはず!

また台湾に行ったときに資料を入れるふりをすれば、こっそり台湾語を確認できるのでカンニングに最適 笑

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まずは「こんにちは」「ありがとう」から話してみませんか?

 

もう少ししっかり台湾語を習得したい方は日本でも台湾語の教科書がありますよ。

一番のオススメは何と言っても近藤綾さんが書いたこの一冊!

 

他にもこんな本がありますよ。興味ある方はぜひお買い求めくださいね。