王育徳から受け継いだ台湾魂、そしてブヌン族研究からタイワンダー☆へ (『トラベル台湾語』著者 近藤綾インタビュー その1)

-近藤さんは、台湾とはどのようなつながりがあるのですか?

アコン(祖父)の王育徳は、台湾語・台湾史の研究者でもあり、台湾独立建国聯盟の前身「台湾青年社」を立ち上げるなど、台湾の民主化運動に尽力するとともに、台湾人元日本兵の補償問題にも携わった活動家でした。1947 年の 2・28 事件で兄を殺され、自身も政府に批判的な劇を上演したことで国民党政府に睨まれ、1949 年に日本へ亡命してきました。その後家族を呼び寄せ、そこで生まれたのが私の母です。母は、そのまま東京で育ち、日本人の父と結婚し、私と弟を生みました。なので、私は在日台湾人三世(日台ダブル)ということになります。

アコンは、私が 5 歳の時に亡くなったので、活動については著作を通して知りました。そこで、「台湾は台湾である」というスピリットをかなり早い段階で培ったと思います。とはいえ、直接の記憶では、いつも手を引いて散歩に出かけては駄菓子屋さんで飴やガムを買ってくれる、どこまでも優しいおじいちゃんでした。

アコンは、志半ばにして亡くなったため、遺稿がたくさん残されており、その整理や編集・翻訳・出版作業にも、のちに随分関わることになりました(王育徳『「昭和」を生きた台湾青年』草思社、2011 年ほか)。

母も日本生まれ日本育ちですが、熱い台湾魂の持ち主なので、私が小さい頃から、台湾関係の会合によく連れて行ってくれました。実家の本棚は、1コーナー丸々、台湾関係の書籍で埋め尽くされています。それで、私も、自然と、「自分は台湾人でもあるんだ」と思いながら育ちました。

 

また、アマァ(祖母)は、91 歳の今もかくしゃくとしていて、毎日ちゃんと新聞を読み、台湾情勢をばっちりフォローしています。もちろん、台湾の昔話や台湾文化のことも沢山話してくれます。特に、台湾料理に関しては名手なので、色々教わりました。アマァのビーフンやアンショーヒィ(揚げ魚のあんかけ)は最高です! 家族みんなでバーツァン(肉粽)を包んだり、腸詰を手作りしたり、小さいころから食卓を通していつも台湾が近くにありました。アマァの存在も、私の「台湾人意識」を育ててくれた大きな一因です。

 

-ご専門は台湾原住民史と伺いましたが、ご自身の研究について簡単に教えてください。

もう研究から遠ざかって久しいので、研究者を名乗るのは憚られますが・・・。修論のタイトルは、「日本植民地期の台湾原住民に対する集団移住政策と『マラリア流行事件』-台中州ブヌン族の事例研究を中心に-」というものです。多くの台湾の先住民族(「原住民族」)は、日本植民地時代に、元来の居住形態である標高 1500m の高山に散住する形態から、低標高(700~800m)の土地に集団で住むよう強制移住させられた歴史があります。また、その際、狩猟+焼畑農耕だった生業も、定住水稲農耕へと強制転換させられました。そのほうが、統治者側としては管理しやすかったためです。

ところが、当時の台湾の低標高地にはマラリアが蔓延していたうえ、水田の用水路などがマラリア蚊の発生を助長し、その結果、多くの死者を出す大流行が起きました。例えば、武界という移住先の村では、1933 年だけで人口の 81.6%にあたる 1707 人もが罹患し、21人もの死者を出しています。その結果、1927 年に 796 人だった人口は、1942 年には 356人へと激減しました。こうした事例はいくつもあり、しかも現場の警察官や公医は、こうした事態を重く見て、移住の中止を進言したものも少なからずいたようです。しかし、上層部はこうした意見を無視し、移住政策を強行し続けました。

現在の言論、特に日本における台湾関係書は、日本植民地統治に関して、良い面ばかりに光を当てることが多く、偏った印象を覚えます。特に、この「マラリア流行事件」に対しては、ほとんど語られてきませんでした。おそらくそれは、それまでの論文や書籍の多くが、為政者側が残した記録のみに基づいて書かれていたことにも起因すると思います。

私はこうした状況に危機感を覚え、現地でまだ記憶を持っていらっしゃるお年寄りたちから話を聞き、それをインタビュー形式でまとめるとともに、日本側の記録史料および医療関係の資料などに基づいて、上述の論文を書きました。お蔭様で、大学院でも高い評価をいただき、その後、自費で製本することになりました。

今でも、このときフィールドワークに入った南投縣信義郷のブヌンの方々とはとても仲良くさせていただいており、第二の故郷とも言える気持ちを抱いています。ブヌンを知って、「台湾」というものを見る視野がぐっと広がりました。ブヌン語も、私は最低限の日常会話くらいしかできませんが、とても魅力的な言語です(文法はとても複雑ですが、発音はかなりシンプルなので、丸覚えが効きます)。皆さんも、高雄縣にはたくさん先住民族の方が住んでいるので、ぜひ遊びに出かけていらしてください。旅行だとなかなか足を延ばせない地方も多いですし、在住者の方ならではの貴重な体験ができるかと思います。

-『すぐ使える!トラベル台湾語』の著者でいらっしゃる近藤さん。なぜ台湾語の本を書こうと思ったのですか?

まず、自分の台湾語とのかかわりについてお話しますと、実は 20 歳までは数字と限られた単語しか知りませんでした。何せ、家庭内の会話は全て日本語で、母も台湾語はほとんど話せなかったからです。アマァが時々電話で「ホー」とか「ヘー」とか言っているのが「台湾語」だということは知っていたのですが、それを話せるようになろうとはあまり思っていなかったんですね。その後、大学に入学してすぐ、第二外国語として中国語を学びましたが、台湾語は手付かずでした。

転機は、大学2年生の時でした。日本人の先輩で台湾語を話せる方がいて、その人に祖父のことを話したら、「王先生のお孫さんなの!? なのに台湾語やってないの!? もったいないよ!」と強く言われて大ショック。悔しかったのなんのって…! その日から猛勉強して、日本で出ているテキストは全てやりこみ、一年後には一通り話せるようになりました。同時期に、台湾人留学生のお友達が大勢できたのもタイミングが良かったです。

また、2004 年から 4 年間、台北駐日経済文化代表処(台湾駐日大使館に相当)代表秘書室に勤務したことも大きかったですね。私には留学経験がないのですが、このとき同僚の99%は台湾人だったので、「駅前留学」状態で、台湾語力が飛躍的にアップしたと思います。この代表処勤務時代に、慶應義塾大学の教室を借りて、小さな台湾語教室を 1 年ほど開いていたのが、『トラベル台湾語』執筆の直接のきっかけです。最初は、既存のテキストを切り貼りして作っていたのですが、まどろっこしくなって、「もういいや、自分で作ろう!」と(笑)。

テキストがある程度書きたまってきたところで、もっと多くの方に台湾語に親しんでもらいたいと思い、出版することになりました。その際、初心者にもわかりやすいように、自分で考案して使っていた「発音すべき声調をそのまま示す」矢印声調記号を使いました。おかげで組版まで自分でやるハメになり、大変苦労しましたが…(笑)。総じて、とても楽しかったです。

-現在、日本と台湾をつなぐ活動をされていると伺いましたが、どのようなことをされているのですか?

2013年から、「台湾を応援する会」という NPO を立ち上げ、そこで事務局長兼デザイナーを務めています。台湾本島の形をした「タイワンダー☆」というキャラクターを通じて、台湾をもっとメジャーにしよう! という活動です。

タイワンダー☆を台湾系のイベントへ派遣したり、台湾関係のニュースを配信したり、台湾で災害が起きた時には募金活動をしたり、さまざまな形で台湾を応援しています。また、グッズも全て台湾製か日本製にこだわっていて、売上の一部は、台湾の母語教育や児童福祉活動などへ寄付する予定です。

おかげさまで、活動4年目の今、4万5千人を超えるFacebookファンがついてくださっていて、その 8 割以上が台湾の方です。タイワンダー☆は、2015 年から「ゆるキャラ®グランプリ」にも参加していて、今年は上位3分の1以内に入る大健闘を見せています! これも、ファンの皆様のおかげです。

また、「台湾を応援する会」のボランティアスタッフさんは20代から70代と幅広い年齢層にわたっており、男女比も半々、色んな職種の方がいます。『高雄プレス』をご覧の皆さんにも、お手伝いいただけたらとても嬉しいので興味がおありの方、どうぞお気軽にご連絡ください☆

※『高雄プレス』(高雄日本人会発行)11月号掲載分に加筆修正。

近藤綾 プロフィール

1979 年東京都出身。『すぐ使える!トラベル台湾語』(日中出版、2007 年)の著者。日本人のお父様と台湾人のお母様の間に生まれ、台湾語研究の第一人者、王育徳氏のお孫さんでいらっしゃいます。近藤さんご自身は日本で育ったこともあり、台湾語を勉強し始めたのは大学時代からとのこと。台湾原住民族史をご専門とされ、台北駐日経済文化代表処(台湾駐日大使館)代表秘書室にご勤務経験があり、現在も積極的に日台をつなぐ活動をされています。

 

 

日台若手交流会から補足情報

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よく使う表現ばかり、カタカナと矢印なので発音もしやすいです。台湾人の友達にきっとウケるはず!

また台湾に行ったときに資料を入れるふりをすれば、こっそり台湾語を確認できるのでカンニングに最適 笑

これで一気に台湾人との距離が縮まっちゃうかも!

 

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